Today's Insight

2024/5/1 10:30作成

欧州;サービス主導の景気回復は実現可能なのか

■ ユーロ圏では景況感指標が上向き、特にサービス業の景況感改善が顕著である
■ サービス業は景気変動に左右されにくく安定化に貢献するが、成長加速の原動力にはなりづらい

 ユーロ圏では、ここ数カ月間、景況感指標が上向き、景気復調を示す兆候が増えている。生産、消費活動の低迷が続くなか、企業、消費者、投資家のマインドが先行して改善している。ユーロ圏のエコノミックサプライズ指数は2月にプラスに転じ、現在も大幅なプラス圏で推移している。同指数は過去30日間の経済指標結果と市場予想との乖離を注目度や経過日数に応じて加重平均して指数化したものであり、注目度が高く、発表日が近い指標が市場予想を上回るほど上昇する。通常、景気回復に先行して上昇する傾向があり、景況感指標同様、景気の復調を示唆している。

 景況感指標では、特にサービス業の企業景況感が顕著に改善している。4月のユーロ圏PMI速報値では、製造業(45.6)が活動縮小領域で3カ月連続の低下となり再び停滞色を強める一方で、サービス業(52.9)は3カ月連続で活動拡大を示した。ユーロ圏業況指数やドイツIfo企業景況感指数でも製造業、建設業、小売業などに比べてサービス業の業況改善が目立っている。サービス業活動に関しては、ユーロ圏経済がほぼゼロ成長で推移する2022年10‐12月期以降も拡大基調が続いている。ユーロ圏では、コロナ禍直前の水準で伸び悩む鉱工業生産、小売売上高とは対照的に、サービス業生産指数、サービス業売上高指数は上昇トレンドを保ち、コロナ禍直前の水準を大幅に上回っている。サービス業活動や取引量が着実に拡大していることを示している。

 ただし、サービス業が今後のユーロ圏経済の成長加速をけん引することに関しては、筆者はやや懐疑的である。一般論として、多くのサービス製品は労働集約的であり、貯蔵や輸送が困難であるという性質がある。従って、サービス業は製造業に比べて在庫変動などの影響が生じにくいメリットがある一方、これらの制約を受けにくく、かつ規模の経済性が働く情報技術などの一部業種を除けば、数量的な急拡大は制限される。実際、ユーロ圏サービス業生産指数の内訳でも、情報・コミュニケーションとそれ以外では上昇ペースに大きな差が観測される。このような性質のため、サービス業は景気変動に左右されにくく一定ペースで安定的に拡大する傾向がある。景気安定化の役割を担い、ユーロ圏の景気後退回避に貢献していると考えられるが、本格的な景気回復には、低迷する製造業活動の復調が必要となるだろう。


投資調査部
マーケットエコノミスト
祖父江 康宏

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